アルセーヌ・ルパン ――あらすじ W――

したたる水滴――バーネット探偵社――

 アッセルマン男爵夫人は、邸内で起きた窃盗未遂事件の解明のため、私立探偵ジム・バーネットを呼んで調査を依頼しました。
 一見すると、何も盗まれていないような事件に見えます。しかし、バーネットはすぐさま、男爵夫人の真珠の首飾りが、何の値打ちもないコピー(模造品)とすり替えられていることを指摘するのでした。バーネットの友人のベシュー刑事も本物の首飾りの行方を捜査しますが、けっきょく徒労に終ります。
 やがて病気で寝たきりだったアッセルマン男爵が危篤におちいります。臨終間際の彼は、夫人に水を一杯飲ませてくれるように頼んだのでした。そして彼女が水を汲むため、水道の蛇口をひねって水を流すと、男爵は苦しげにあえぎながらも、夫人に向かって復讐の言葉を洩らすのでした……。
《 わしはおまえを罰している!……流れる水……したたる水滴…… 》
 男爵が浮気好きな妻に対して行う用意周到な復讐の仕方もすごいですが、その夫人に対して否応のない取引を提案し、ちゃっかり真珠の首飾りをくすねてしまうバーネットの小憎らしい悪党ぶりにも目が離せません。




ジョージ王の恋文――バーネット探偵社――

 ベシューからの依頼で、ある殺人事件の捜査を手伝うことになったバーネットは、フォンチーヌ村へと向かいます。そこに住む古本好きのボーシュレルという老人が何者かに殺されたのです。
 予審判事のフォルムリーは、退職官吏のルボックと三人従兄弟のゴージュたちを対決させますが、彼らは口々に相手に罪をなすり付け合います。ルボックには完全なアリバイがあるし、ゴージュたちも怪しそうですが、その陳述には筋が通っています。
 そんな所へ到着したバーネットは、《 ルボックさんの紙入れに名刺が入っています。その名刺が手掛かりになります 》 と発言するのでした。
 さっそく、その名刺に書かれたイギリス夫人のミス・エリザベスを召喚してみると、なんとジョージ四世王に関する秘密の書簡の存在が明らかになったのです……。
 バーネットのするどい慧眼から事件は徐々に明らかになっていきます。そんなバーネットを馬鹿にする予審判事のフォルムリーらも、最後には驚くような光景を目の当たりにし、事件は一気に解決に向かうのでした。そして、この事件でバーネットはどんな利益を得るのでしょうか……?




バカラの勝負――バーネット探偵社――

 バーネットとベシューは、ある殺人事件の調査のためルーアン市へとやって来ました。ポール・エルスタンという金持ちの若者がある夜、クラブで機業家の四人の仲間とバカラの勝負をしたのですが、四人の仲間が帰ったあと、一人クラブに残っていた彼が、何者かによって殺されたのです。容疑者として、クラブの隣の建物に住む技師が逮捕されました。しかし技師の妻は、夫の無実をバーネットらに訴えます。
 バーネットとベシューは、殺されたエルスタンの仲間たち四人を集め、事件当夜の再現を行うことにします。エルスタンの役を演じるベシューとほかの四人に、当日の夜そのままの状態で、バカラの勝負を再現させるのです。やがて気弱になって勝負をしくじる一人に代わって、バーネットもバカラに参加しました。そして彼らの勝負は、先の四人の仲間の証言とはまったく違う方向に進んでいくのでした……。
 犯罪のあった現場を再現し、犯人を精神的に追い詰めるバーネットの手段はさすがです。そしてほかの機業家連中の「共犯性」を追求し、「当然の制裁」を与えるバーネットの手腕にも頭が下がります。




金歯の男――バーネット探偵社――

 バヌイユ村の司祭館で大事な宝物が盗まれる事件が発生しました。ベシューはバーネットの協力を求め、二人は村へと向かいます。
 司祭さんの話だと、泥棒は左側の歯が金歯だったということです。しかし、ベシューの捕まえたベルニッソンという男は、右側の歯が金歯なのでした。
 ベルニッソンは泣きわめいて容疑を否認します。そしておどおどしながら 《 どうかこのことは、妻には絶対に内緒にしていてください…… 》 などと奇妙なことを言い続けるのでした。
 バーネットはさっそく調査に乗り出します。そして、「右だ! 左だ!」と相変わらず金歯のことでもめる司祭さんとベシューの目の前で、事件のあらましを解明していくのでした……。
 バーネットが犯人に対して尋問もせずに、実に手際よく自然に自白にまで追い込み、そしてその犯人からさらに自分の利益を頂戴する……バーネットの見事な手並みがおかしい作品です。




ベシューの十二枚のアフリカ株券――バーネット探偵社――

 ある朝、実業家のガシール氏は、自分のアパルトマンから株券の包みをそっくり盗まれていることに気づきました。
 その中には、ベシューの預けていた十二枚のアフリカ鉱山株も入っていたのです。そこで、ガシールはさっそくベシューに連絡して、調査に来てもらいました。二人は、まだ犯人がこのアパルトマンのどこかにひそみ、株券の包みもどこかに隠してあるはずだと確信します。そして住人たちの外出を禁止してまで探し回るのでした。
 なかなか株券の行方が見つからないベシューのもとに、バーネットが捜査に介入してきます。
《 バーネットに介入されては、俺の株券が横取りされてしまう! 》 ベシューは不安に駆られバーネットを煙たがりますが、バーネット自身はどこ吹く風でアパルトマンに自由に出入りします。
 やがてバーネットの発言で、意外な犯人の名が明らかになるのですが……そして肝心の株券の行方は……?
 今回もまたバーネットは、みごとに株券のありかを発見し何事もなかったかのように取り戻します。そして、ベシューに株券は有益に慈善に使うつもりだと約束しながらも、もちろん自分を先に富ませることは忘れないのでした……。




偶然が奇跡を作る――バーネット探偵社――

 金持ちの工業家カゼボン氏の所有するマジュレック城で、一人の青年の墜落死体が見つかりました。その青年はアレスカール伯爵で、以前この城の持ち主だった一族の子孫でした。カゼボン氏の父親の代にこの城を買い取ったので、伯爵一家はやむなく城から追い出されたのです。
 ベシューはカゼボン氏に呼ばれて捜査を開始します。一方、亡くなったアレスカール伯爵の姉エリザベートはバーネットに調査を依頼するのでした。
 エリザベートの話によると、城のくず折れた塔の天辺に重要な書類があり、そのことを突き止めた伯爵が、縄を使って塔に登っている最中、カゼボンがそれを見つけて発砲したというのです。
 感情的になってカゼボンを非難するエリザベートの話には、確実な証拠がありません。第一、伯爵はどのようにして、塔に縄をかけて登ったというのでしょうか?
 バーネットは、あざやかな推理と綿密な調査でこの謎を突き止め、事件の真相を暴き出します。そして、彼は不当な扱いを受けていた伯爵一家を救い出し、また自分の利益もちゃっかりと受け取るのでした……。




白手袋……白ゲートル……――バーネット探偵社――

 ベシューの別れた元妻オルガ・ボーバンの家が荒らされ、豪華な家具一式が盗まれました。彼女の災難を聞いたベシューは、バーネットを伴いすぐさま彼女の家へと向かいます。
 今ではアクロバット歌手になっているオルガは、ベシューたちに捜査を依頼するものの、バーネットのいささか突拍子もない提案にあきれるのでした。
《 一週間以内に、盗まれた家具を取り戻してさしあげます…… 》
 こんな約束をしたのに肝心のバーネットは、約束期限の前日になるまで何もせず、ぶらぶらとしています。ベシューはそんなバーネットの様子が心配で、居ても立ってもいられないのでした。
 ようやくバーネットは重い腰をあげて、捜査のためにオルガの住むアパルトマンへと向かいます。門番部屋に張り込む二人は建物に出入りする人々を見張ります。そこで彼らが気づいたこととは……?
 誰にも怪しまれずに人の意表を突いた計略で、白昼堂々と盗みを働く犯人たちをバーネットはいとも簡単に突き止めます。そして、この事件でのバーネット流の “ピンハネ” は、どのようなものになるのでしょうか……?




ベシュー、バーネットを逮捕す――バーネット探偵社――

 金融業者ベラルディーの妻が誘拐され、自動車から投げ殺されるという事件が起きます。自動車を運転していた代議士のデロックは、彼女を誘拐・監禁したことは認めましたが、殺害したことについては断固として否認しました。
 ベシューがこの事件の捜査に立ち会ったところ、デロックは一枚の写真を見られることをかたくなに拒み、警官たちの隙をついてどこかへ隠してしまいました。
 ベシューはこの事件にバーネットが関係していることをつき止め、代議士の父親の退役軍人デロック将軍の自宅を見張ります。
《 バーネットは必ず現れるはずだ! そしてあの写真も取り戻す……今度こそ、バーネットと決着をつけてやる! 》 
 ベシューはこう意気込んでデロック将軍の家を訪れます。そんなベシューでしたが、彼は家に入るなり、世にも奇怪な光景を目の当たりにし、呆然となるのでした……。
 バーネットの非凡な着眼で写真の隠し場所も見つかり、そこから事件の悲しい真相が明らかになります。そして、そんなバーネットにベシューは、自分の刑事としての職業的良心から 《 バーネット、おまえを逮捕する 》 と宣言するのでした……。




謎の家

 女優レジーヌが誘拐され、ダイヤモンドを強奪される事件が発生します。それからしばらくして、マネキン(マヌカン。モデルのこと)のアルレットも、同様にして襲われるのでした。美しい二人に関心を寄せる航海紳士ジャン・デヌリスは、彼女たちが連れ込まれた屋敷がどこにあるのか、また何者の仕業なのか調査にあたります。
 アルレットの証言で、メラマール伯爵に疑いがかかり、デヌリースたちは彼の屋敷へと乗り込みます。そして、レジーヌもアルレットもその屋敷に着いたとたん、動揺して気を失ってしまうのでした……。なぜなら、その家は、彼女たちが誘拐された場所そのものだったからです……。
 伯爵兄妹に襲い掛かる説明のつかない、得体のしれない陰謀……デヌリス自身も巧妙な犯人から自分の正体を見破られそうになります。そして、「謎の家」に関する意外な秘密と、ある一族に代々受け継がれる恐るべき怨念にも似た計画とは……?
 清純でまじめなアルレットに対するデヌリスのひそかな愛情を通して、事件は劇的に展開していきます。




バール・イ・ヴァ荘

 深夜、ラウール・ダヴナックが自宅のアパートに戻ると、一人の若く美しい女性が室内で待っていました。そこへ、ベシュー刑事から電話が入ります。
《 ルパン、難事件が起こったんだ。すぐに応援に来てくれないか? すでに一人死者が出てしまったんだ…… 》
 そして、この通話のやりとりを聞いていた女性は、突然卒倒してしまうのでした……。なぜならその死者とは、その女性の姉ベルトランドの夫だったからです。
 言いようのない不安を感じ、助けを求める美女カトリーヌを連れ、ダヴナックことルパンは、ベシューの滞在するノルマンディーにある「バール・イ・ヴァ荘」へと、自動車を走らせるのでした……。
 姉妹の祖父モンテシュー氏の遺言に記された一連の数字の羅列は何を意味するのか? そして、バール・イ・ヴァの領地の秘密とは一体何か?
 この作品でルパンとベシューは、喧嘩をしながらもよき協力者、といった具合の名コンビ(?)ぶりを発揮します。また、ルパンと美しい姉妹との三角関係の行方はどうなるのでしょうか? 最後まで気をもませる長編です。




エメラルドの指輪

 ある時、オルガは恋人のマクシム・デルビノルと一緒に食事をして、そのあと、彼のためにピアノを弾いてやったことがありました。彼女がふと自分の指を見やると、なんと「エメラルドの指輪」がなくなっているではありませんか。
 彼女はマクシムに、一緒に指輪を探してくれるように頼みます。しかし、マクシムは不思議なことに、その彼女の要求をかたくなに拒むのでした。
 困ったオルガはバーネット探偵社に電話をかけ、指輪を探してもらうように依頼します。しかし、やって来たのはバーネットではなく、優雅な物腰の紳士・デヌリース男爵でした……。
 この短編では、ある状況下に置かれた女性のとる無意識な行動が主題となっています。指輪は一体どこへ消えてしまったのか? デヌリース男爵の心理学的な薀蓄 ( うんちく ) のある言い回しが作品をきわ立てています。




二つの微笑を持つ女

 デルルモン侯爵の娘のアントニーヌは田舎からパリに出てきて、父親の侯爵の住むアパルトマンへとやって来ました。
 彼女は侯爵の住む階を間違えて、ルパンが借りている部屋を訪ねてしまいます。そしてルパンは、アントニーヌがゴルジュレ警部に付け回されているのを見て、彼女の危機を救ってやりました。
 警部が言うには、 《 あの娘は犯罪者ポール親分の情婦のクララだ! 》 と決め付けるのです。ルパンは彼女の清純な微笑を見て、とても信じられない思いでした。
 その夜ルパンは、自分の部屋の上階に住む侯爵の財産を狙って部屋に忍び込みます。そして彼は、自分と同じように部屋に忍び込んできた不審者を見つけるのでした。彼がその不審者を取り押さえてみると……なんと、それは昼間見たアントニーヌだったのです……!
 アントニーヌと関わりあうルパン。彼女は出会うたびに違った微笑をみせ、そして彼に対する態度もそのつど違うのです……。
 十五年前に起こった歌姫エリザベートの死因の謎が軸となって、登場人物たちの人間関係がもつれ合います。二つの微笑の秘密と、そんな不思議な女性に翻弄されていくルパン……。謎は最後まで持ち越されていきます。




特捜班ヴィクトール

 特捜班のヴィクトール刑事はある日、映画館で大変美しい女性を見かけました。彼がその女性に気を取られていると、館内のどこかから、《 泥棒だー! 誰か捕まえてくれー! 》という叫び声が聞こえて来ました。その男は何か大事なものを取られたらしく、血相を変えて窃盗犯を追いかけていきます。
 この窃盗事件をきっかけにしてヴィクトール刑事は、盗まれた国防債券の行方を追いかけて、めまぐるしい捜査を展開することになるのでした。
 そして彼はこの事件の背後に、しばらく消息の知れなかった「アルセーヌ・ルパン」の影を見つけるのです……。
 ヴィクトールはある策略を用いて、ルパンの身辺に近づこうと努力します。そして彼は、あの映画館で見た美しい女性……アレグザンドラ公爵夫人に再会し、彼女を通じてルパンとの接触を試みます。
 刑事ヴィクトール対怪盗ルパン……。追う者と追われる者との闘いが、こうして始まりました……。
 読者は物語の最後で、ルパンの意外な登場の仕方と、ヴィクトールの真の素顔に、度肝を抜かれることでしょう……。そして彼、その男アルセーヌ・ルパンの、あの懐かしくて楽しげな、勝利のダンス・ステップが鳴り響くのです……。




カリオストロの復讐

 1月のある日、ルパンはパリ近郊のル・ヴェジネに別荘を買いました。それは、その売り主である資産家の老人の持つ大金を巻き上げるための、用意周到な計画だったのです。
 ルパンは別荘の修復を依頼するために、知り合いからフェリシアン・シャルルという青年建築技師を紹介してもらいました。ルパン自身は旅行に出発し、老人の姪エリザベートが、婚約者のジェロームと結婚することになる七月に舞い戻って、札束を頂戴することにしたのです。
 ルパンが帰り着くと、ル・ヴェジネは惨劇の場と化していました。エリザベートがある男に殺害されたのです。その男はジェロームがすぐさま射殺しました。そしてまたしても、新たな被害者が出ることになるのです……。
 この事件で、フェリシアン・シャルルが容疑をかけられますが、彼はなぜか固く口を閉し、沈黙するのでした。このつかみどころのない青年に、ルパンはいささか困惑します。
《 この青年は一体、何を考えているんだ……? 》
 そんな彼のもとに、一人の若く美しい女、フォスチーヌが現れます。
《 あなたはアルセーヌ・ルパンよ! 今度のことは、みんなあなたが企んだんだわ! 》
 ルパンは、フェリシアンたちをはじめとする若者たちの行動が理解できず、驚き呆れます。そして彼は、ある男から意外な、耳を疑うような真実を聞かされるのでした……。
 カリオストロ伯爵夫人の復讐……それはルパンことラウールの、若き日の、けっして忘れることのできないある女とのいさかい……そして、今は亡き愛する妻との間に生まれた行方知れずの息子のこと……そう、それはかつてルパンに対して復讐を誓った、一人の魔性の女の企んだ用意周到な計画だったのです……!
 ルパンは、今までのかずかずの冒険でも一度も味わったことのない苦痛にみまわれ、そして悩み苦しみます……。
 アルセーヌ・ルパン自身が「生涯の最後の冒険」と考えたがっているこの作品は、最後のページまでたどり着いた読者の心を、きっと激しく打つことだろうと思います……。




アルセーヌ・ルパンの数十億フラン

 ニューヨークの新聞記者パトリシアは、彼女が雇われている新聞社の社長ジェームズ・マッカラミーの殺人事件に巻き込まれます。マッカラミーの死の謎を解く手掛かりは、彼が書いた「ポール・シナー」という謎の言葉と、半年後に開封するように頼まれた一通の封筒でした。
 マッカラミーは複数の人物たちと、何かをめぐってある計画を立てていたようなのです。パトリシアは凶暴な男〈ザ・ラフ〉に付け狙われながらも、その計画が何なのか突き止めるために、ひとり汽船に乗ってパリへと向かうのでした。
 ようやくパリに着いたパトリシアは、ある人物の援助を得るためにパーティー会場へと向かいます。そこで出会った紳士はオラース・ヴェルモンと名乗りました。そして彼は、パトリシアに謎の言葉「ポール・シナー」について、明快に解答を与えるのでした。
 果たしてマッカラミーたちが企んでいた計画とは何なのか? 〈ザ・ラフ〉ことマフィアノ一味の陰謀とは……? オラース・ヴェルモンことアルセーヌ・ルパンは、美しいパトリシアとともに、彼についても重要な関係があるこの事件に深く関わっていくことになります……。
 ガニマール、ベシュー、ヴィクトワールなど、ルパン・シリーズでおなじみの人物たちが、ルパンの最後の冒険に花を添えます。そして物語の最後で、何もかもがすべて無事に解決したルパンとパトリシアは、大西洋横断客船 《ボナパルト号》 に乗り、誰にも邪魔されることなく悠々とアメリカへと向かうのでした……。
 さようなら、アルセーヌ・ルパン! またどこかで会える日まで……!!


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