アルセーヌ・ルパン ――あらすじ V――

塔のてっぺんで――八点鐘――

 エーグルロッシュ伯爵の姪オルタンス・ダニエルは叔父夫婦との生活に嫌気がさし、行きずりの男と駆け落ちしようとします。そんな彼女の前にレニーヌ公爵という紳士が現われました。
 公爵はオルタンスを誘って、長いこと閉された古い屋敷の探検に連れ出します。荒れはてた屋敷に入っていく彼らの耳に、どこからか大時計の振り子がチクタクと聞こえてきました。
《 長いこと閉されて無人だったこの屋敷で、時計が動き続けるなんて……!? 》
 不思議に思う二人を前にして、その大時計はやがて八点鐘を鳴り響かせるのでした。そして彼らは、その屋敷で恐ろしいものを目撃します……。
 レニーヌは、かつて起こった忌わしい犯罪を見事に解き明かし、オルタンスに自由を与えます。そして、彼女とある契約を結ぶことを提案し、彼女の失われたコルサージの止め金を見つけ出すことも約束するのでした……。
《 わたしはあなたに、八つの冒険を提供しましょう。それが終ったとき、あなたは…… 》
 若く美しいオルタンスを連れて、レニーヌ公爵の冒険が始まります。




水瓶――八点鐘――

 パリの料理店でレニーヌとオルタンスは、ひどく取り乱している若者を見かけます。彼が先ほどまで読んでいた新聞には、死刑囚ジャック・オーブリユの記事が載っていました。その処刑が明朝に執り行われるというのです。
 若者はその死刑囚の親友でガストン・ジュトルイユと名乗りました。彼は親友の無実をかたく信じ、その死刑執行に驚愕したのでした。
 レニーヌは、無実の人間の罪を晴らすため調査に乗り出します。そして彼は真犯人を突き止め、盗まれた札束のありかを探し当てようとします。しかし、狡知に長けた犯人はその隠し場所を容易に白状しようとはしません。やがて犯人は、ある方法を用いて証拠隠滅をたくらむのですが……。
 消されてしまった物的証拠……それにもかかわらずレニーヌが犯人を罠にかけ、自白にまで追い詰めるシーンが印象に残ります。




テレーズとジェルメーヌ――八点鐘――

 レニーヌは、ある犯罪が企まれていることを知りました。その犯罪計画とは、誰かを断崖から突き落して亡き者にしようというものだったのです。そこで、レニーヌはオルタンスを連れて、この犯行をくい止めるべく、晩秋のエトルタへと向かいました。
 海岸では、数組の観光客が楽しそうに遊んでいます。このうちの誰かが犯行を計画しているのでしょうか? 二人は監視の目を光らせずにはいられません。
 やがてアンブルヴァル氏という紳士が、脱衣小屋で刺殺死体となって発見されます。しかし、この小屋は密室に近く、凶器となったナイフも見つからずじまいでした。誰がどのようにして殺害したのでしょうか? また「犯罪計画」との関連は……?
 夫を亡くし悲嘆に暮れる夫人のテレーズ……。そんな彼女の前に一人の女性が現われます。彼女はアンブルヴァル氏の友人で、ジェルメーヌと名乗りました。
 レニーヌは事件の真相を解明するために、何かいわくのありそうな二人の女性を会見させます。そして彼女たちは口々に、相手を非難し合うのでした……。
 レニーヌが二人の女性から真相を暴露させるために、その影響力を及ぼすさまが見事です。また、殺害されたアンブルヴァル氏の、彼の妻や幼い娘に対する想いや、テレーズ夫人の心理的な葛藤なども見逃せない作品です。




映画の啓示――八点鐘――

 オルタンスはレニーヌを誘って、彼女の異母妹ローズ・アンドレが主演しているという映画 『幸福な姫君』 を見にいきました。
 レニーヌはその映画の中で、一人の男優のそぶりがとても気になります。その男優はローズ・アンドレに対して、何かしらよこしまな感情を抱いているように見えたからです。
 二人は彼らについて調査を始めます。そして、ローズ・アンドレが何者かによって誘拐されたことを知るのでした。その誘拐犯はやはり、あの男優らしいのです……。
 ローズ・アンドレを救い出すために、二人は追跡を開始します。そして追跡の途上、オルタンスは絶望を感じ、《 妹はもうあの男に殺されてしまったかもしれない…… 》 と嘆くのでした……。
 そんな彼女をレニーヌは力強く励まし、映画と同じ進行で、その逃走の足跡を残す犯人の行方を追いかけます。そして、ようやく見つけ出した監禁場所で彼らが見たものは……。
 物語の最後でレニーヌとオルタンスは、熱烈に恋い慕う者同士の固い絆に心を打たれます。そして、オルタンスは徐々に、レニーヌという男に惹かれ始めていくのでした……。




ジャン・ルイの場合――八点鐘――

 レニーヌとオルタンスは散歩の途中、セーヌ河に飛び込み自殺をはかる一人の娘を助けます。彼女を家まで連れて行き、父親に事情を問いただすと、ある男性との結婚が破談となり自暴自棄になったということでした。
 その男性はジャン・ルイという名前なのですが、どういうわけか姓が二つあって、ドルミヴァルともいい、またヴォーボワともいうのでした。そのあたりに何か、この事件の秘密があるらしく思われます。
 レニーヌとオルタンスは、ジャン・ルイ青年の住む田舎の館へと向かいます。彼らがその館へと足を踏み入れると、二人の婦人がやかましく喧嘩をしている物音が聞こえてきました。彼女たちはドルミヴァル夫人とヴォーボワ夫人でした。
 気の強い二人の婦人にはさまれて、その青年はとても憂鬱そうな感じです。彼女たちは口々に彼の母親であると名乗りました。彼から出生の身の上話を聞いたレニーヌはある解決策を思いつきます。その方法とは……?
 レニーヌが愛し合う二人の男女を結びつけるために考えたその方法は、とてもユニークです。ジャン・ルイは一体何者なのか? 本人すらもよくわからないうちに事件はハッピーエンドで終わり、オルタンスと同様に、読者もきっと微笑を浮かべることでしょう。




斧を持つ貴婦人――八点鐘――

 近ごろパリでは、「斧を持つ貴婦人」なる殺人鬼が出没して、すでに何人かの犠牲者がその餌食となっていました。その犠牲者は若い女性ばかり……。
 殺人鬼の犯行はとても異常なものでした。犠牲者の女性を誘拐してから決まって八日目に殺害することにしていたのです。
 レニーヌは、オルタンスに十分身辺に気をつけるように注意します。しかし、あろうことかついに彼女がその魔の手に落ちてしまいました……。
 レニーヌは彼女の身を心配し、居ても立ってもいられません。「斧を持つ貴婦人」が、犠牲者を血祭りにあげるのは誘拐してから八日目……刻一刻とそのタイムリミットが近づいてきます。
 彼は考えに考えて推理を働かせ、オルタンスを救うために努力します。そして、彼は犠牲者たちにある共通点があることを発見しました。果たして彼が気づいた共通点とは……?
 レニーヌは、数少ない手掛かりの中から犯人の異常な習性を推理し、窮地におちいった愛する女性を救出するために行動を開始するのでした。




雪の上の足跡――八点鐘――

 『斧を持つ貴婦人』事件で心身ともに疲労したオルタンスは、従姉の住む地方の村、バシクールに転地療養に出かけました。彼女はその地で、粗暴なゴルヌ男爵親子の噂を聞きます。そして、その模様を話題にして、レニーヌに対して一通の手紙を書くのでした。
 ゴルヌ男爵とその息子マチアスは、嫁のナタリーを虐待しています。そして彼女を救いたいと願っているジェロームという青年がいることを、その手紙に書きます。
 レニーヌは彼女のその手紙を読み終えると、「七番目の冒険」が生じることを期待して、すぐにも旅行の仕度をし、彼女が滞在するバシクールへと向かうのでした。
 レニーヌが到着すると、村では大騒ぎをしていました。昨夜、三発の銃声がマチアス・ド・ゴルヌの住む井戸屋敷で鳴り響いたというのです。そして、調べによると雪の上に足跡が残っていました。ジェロームの犯行であることは、その足跡だけでも明白な証拠です。
 雪の上に残った証拠から検事たちは当然、ジェロームに疑いの目を向けます。しかし、レニーヌは彼らの捜査に割って入り、明快な推理を試み、恋する男女の危機を救い出すのでした……。
 物語の後半で、オルタンスはレニーヌの卓越した推理を見届けたあと、姿を消します。「七番目の冒険」もレニーヌの活躍で無事解決し、そしていよいよ次回は八番目の冒険……レニーヌとオルタンスの恋路の行方はどうなるのでしょうか……? 




メルキュール骨董店――八点鐘――

 「八点鐘」の約束の日が近づいたある日、レニーヌはオルタンスに手紙を出します。そして、彼女のために取り戻してみせると約束した、コルサージの止め金のありかを教えるのでした。
 オルタンスは、レニーヌに指示された通りの衣装や物をたずさえ、指定された場所へと一人で向かいます。たどり着いたそこは「メルキュール骨董店」という、たいそう立派な構えの店でした。
 オルタンスは店の主人のパンカルジに、コルサージを返してもらうように頼みます。そして、彼女の服装を見たパンカルジは、急に動揺して恐れおののくのです。この相手の狼狽に乗じて、オルタンスはレニーヌに教えられた通り、一気に自分の要求を突きつけて奪われたコルサージを取り戻そうとします。そして、あともう一息というところで、パンカルジは予測のつかない意外な行動を取るのでした……。
 コルサージに隠された秘密……パンカルジ夫婦のコルサージに対する異常な執着……そして、肝心のコルサージのありかは……? オルタンスの危機を救いに入るレニーヌにとって、すべては最初からわかりきったことでした……。
 そして、いよいよ約束が果たされる時が来ました。あの古城の大時計が八点鐘を鳴り響かせます……二人の恋人たちはついに……。




カリオストロ伯爵夫人

 ラウール・ダンドレジーは、デチーグ男爵の一人娘クラリスを愛していました。彼はある時、デチーグ男爵とその仲間たちが企む陰謀を知ってしまいます。それは男爵たちが、一人の貴婦人を秘密裁判にかけ、闇に葬ってしまおうという恐るべき計画でした。
 ラウールはその現場を目撃し、その美しい貴婦人があやうく殺されかけるところを間一髪のところで助け出します。彼女は “カリオストロ伯爵夫人” という妖しい美しさを持つ、謎の女性でした……。
 二十歳の若きラウールは、可憐な少女クラリスと誓った愛のことも忘れ、妖艶なカリオストロ伯爵夫人に心の底から惹かれてしまいます。そして二人はセーヌに浮かぶ川舟の上で同棲し、甘やかな蜜月を過ごすのでした……。しかし、そんな彼らにもいつしか、破局の影が忍び寄ることになります……。
 この作品では、若き日のアルセーヌ・ルパンの青春が生き生きと描かれています。中世から伝わる伝説の財宝をめぐっての若きルパン――ラウールたちの熾烈な争奪戦、またルパンのカリオストロ伯爵夫人への情熱、クラリスとの恋愛の行方など、最後まで目の離せないストーリーです。




緑の目の令嬢

 パリ市中をぶらぶらと歩いていたルパンは、二人の美しい女性を見かけます。一人は青い目を持つ大柄なイギリス女性、そしてもう一人は緑の目を持つ可憐なパリジェンヌでした。
 彼はどちらの女性に声をかけようかと迷います。そして緑の目の令嬢の方にしようと思った矢先、彼女は二人の男たちに取り巻かれてしまいます。そして男たちは彼女をめぐって、何やら口論を始めるのでした。
 ルパンは助けに入ったものの、その間に彼女はある初老の男に連れ去られてしまいます。ルパンは彼女のことが気になるものの、いつかまた出会えることを期待して、もう一人の美女・青い目の女性の跡をつけてみることにするのですが……。
 ルパンは青い目の女性とともに乗り合わせた列車で、襲撃事件に巻き込まれてしまいます。そしてあろうことか、その襲撃犯人に、あの緑の目の令嬢が容疑者として浮かび上がってきたのです……。
 怪しい男たちに付け回され、何度も危機に陥った令嬢は、つねにルパンの助けを振り切って彼の前から逃げ出します。どうして逃げ出すのか……? 若い女性の心理と、彼女の緑の目の奥に隠された、遠い記憶に封印された謎がからまりあいながら物語は進行していきます。




山羊皮服を着た男

 ある日、サン・ニコラ村を一台のリムジンがけたたましいスピードをあげて通り過ぎます。村人たちは、そのあまりにも無茶苦茶な運転をして爆走するリムジンの運転席に、山羊皮服を着込んだ男を目撃しました。そして座席には、一人の女性が頭を血まみれにして叫び声をあげています……。
 そのリムジンは森の方角へと走っていきました。村人たちが森まで行ってみると車体は大破し、中から先ほどの女性の遺体が発見されました。しかし、運転していた男の姿は見えません……ただ、着ていた山羊皮服を除いては……。
 一体、あの男はどこへ行ってしまったのでしょう? そして、また新たに、男性の遺体が発見されました。謎は深まるばかりです。
 この事件にルパンは新聞を通じて介入し、そのあらましを推理するのでした。果たして彼の言う事件の真相とは……? かつての名作をヒントにして意外な犯人の正体が明らかになります。


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