アルセーヌ・ルパン ――あらすじ U――

太陽の戯れ

 ある日、ルブランが小説のネタをルパンにせがんでいると、ルパンは突然、
《 俺がこれから言う数字を、紙に書き出していってくれ 》 と奇妙なことを言うのでした。
 ルブランが外を見ると、向かいの建物の壁に光線があたって、何かの合図をしているように見えました。
《 そんなもの、子供の遊びじゃないか…… 》 ルブランは思いますが、ルパンは意に介さずに数字を言い続けていきます。そして驚いたことに、紙に書き出した数字をアルファベットに変えていくと、なんと文章が浮かび上がって来たのです!
 二人が光線の出ているアパルトマンへ出かけていくと、部屋の中では一人の人物が殺されていました……。
 日常の些細な出来事から偶然糸口を見つけて、複雑な様相を見せる事件に巻き込まれていくルパンが、犯人の屋敷に乗り込んでまんまと事件を解決していくさまが軽快な短編です。




結婚指輪

 ある日、イヴォンヌは一人息子を夫のドリニイ伯爵に奪われ、自宅に監禁されてしまいます。伯爵はその母親と組んで妻のイヴォンヌを落とし入れ、無理やり離婚しようという魂胆なのです。
 彼女は長いことかかって、体を不自由にしているいましめをほどくと、何とかして息子を取り戻す方法を考えようとしました。そしてふと、数年前に自分のことを気にかけてくれたある男性の言葉を思い出したのでした。
《 もしわたしの助けがいるようでしたら、この名刺をポストに入れなさい。すぐに来てあげます 》
 彼女は、ばかな考えだとは思いましたが矢も盾もたまらず、誰かが名刺を拾い上げてポストに入れてくれることを期待して、監禁されている部屋の窓からその名刺を落としたのでした……。
 ルパンはイヴォンヌが不利な立場になる「結婚指輪に関するある秘密」を守るために見事な方法を考え付き、伯爵たちの見ている目の前でそれを実行します。そして彼女の窮地を見事に救います。
 困っている女性を軽快に救い出すルパンが紳士的でもあり、救われた夫人が指輪に秘めたある想いも印象的な作品です。




影の合図

 ルブランは近ごろ購入した絵をルパンに見せ、その絵が真向かいに住んでいるルイズという婦人の所有している絵と同じであることを話します。そして、そのルイズは年に一回、絵に描かれている日付にどこへやら出かけるというのです。
 この奇妙な行動を不審に思ったルパンは、さっそく彼女のあとをつけ、ある空き地で大勢の人々が集会を開いている光景を目撃します。
 彼らは何のために年に一回、同じ日付に、同じ場所に集まるのだろうか? なにが目的なのか?
 その空き地の管理者に問いただすと、意外な真実が明らかになりました。そして、そこにもほかの二枚の絵と同じ絵が飾られていたのです……。
 フランス革命で没落した一族の百年にもわたる呪縛ともいえる財宝のありかはどこなのか? どうしたらその手掛かりが得られるのだろうか? ルパンは三つの絵の謎にからんで、毎年むなしい努力を続けて奇跡を待ち続ける一族に代わってその謎を解き明かします。




地獄の罠

 デュグリヴァル夫婦の財布を白昼堂々と盗み取ったルパン。しかし、その結果デュグリヴァル氏は自殺し、あとに残された夫人とその甥ガブリエルは復讐を誓い、ルパンは二人に憎悪されることになります。
 それからしばらくたち、そんな彼らに追い討ちをかけるかのように、二度目の盗難が発生します。一時は 《 またルパンの仕業では……? 》 と噂されますが、結局その真相はついにわからずじまいでした。
 ある日、一人の男が未亡人とその甥の住居を訪ねます。ところが、その男は彼女らの住居に入るなり、甥のガブリエルからいきなり短刀で切りつけられ、負傷させられてしまいました。その様子を陰で見ていたデュグリヴァル夫人の声高らかな笑い声……。その男ルパンは、彼女らの虜(とりこ)となってしまいました……。
 一体ルパンの運命はどうなるのか? 負傷した彼のかたわらには、冷酷そうなガブリエルが監視の目を始終光らせています。そして、いよいよ二人はルパンに死の宣告をくだすのです……。
 次々に不可解な状況で窮地を脱していくシーンが続き、そして、予測のつかぬ意外な結末がルパンを待っていました……。




赤い絹の肩掛け

 ある朝、ガニマール警部は警視庁に向かう道すがら、怪しげな行動をとる二人組みに遭遇します。警察官の直感から 《 これは絶対にあやしい……! 》 と思ったガニマールはその二人組みの跡をつけるのでした。
 そして、とある建物にたどり着き、中に入って見ると……出迎えたのはこともあろうに、アルセーヌ・ルパンその人でした!
《 やあ、ガニマール君! 》 ルパンはにこやかに話しかけるのでした。そして二人組みに 《 君たち、どうもありがとう! よくぞ警部をここまで連れて来てくれた! 》 そして、あっけにとられ、やがて怒り心頭に達したガニマール警部に、ルパンは彼の込み入った用件を伝えるのですが……。
 この人を馬鹿にした調子で始まる短編は、ルパンの用意周到な計画にまんまと乗せられてしまうガニマール警部に、少しあわれな感じをもよおさせる作品です。どこまでも警部をバカにするアルセーヌ・ルパン。この物語ではかなりイタズラ好きという感のある彼が登場します。少々ふざけすぎでは……?




うろつく死神

 モウペルテュイの城館に住む令嬢ジャンヌ・ダルシューを救うため城内に忍び込んだルパン。案の定、城の庭でジャンヌは死の危険に直面し、あやういところをルパンの救援で命を救われます。
 ルパンは彼女を脅かしている危険が、誰が仕組んだことなのか、そして目的は何なのか調査しようとします。そしてルパンは、ジャンヌの父親で病気で寝付いているダルシュー氏の主治医とともに犯人の陰謀を阻止しようするのでした。
 調査の結果、ルパンは事の真相の何もかも知りえた今夜、必ず犯人は襲ってくると主治医とジャンヌ嬢に打ち明け、待ち伏せを試みます……。
 冬の閑散とした城館を舞台に、欲に捕らわれた人間のあさましい行為が亡霊のように浮かび上がり、それを阻止しようと試みるルパンの勇敢な行動がひときわ印象に残ります。




水晶の栓

 部下のジルベールとヴォーシュレーの計画に乗ったルパンは、代議士のドーブレックの別荘を襲いに行きます。しかし、彼の二人の部下は何かある物をめぐって争い始め、ついにドーブレックの下男を殺害するにまで至ってしまいました。
 血を流すことを好まぬルパンは、二人を叱り付けますが後の祭りです。警察の追っ手が来ますが、ルパンはあやうく難を逃れ、部下たちは捕まってしまいます。
 ルパンが逃げる前にジルベールから取り上げた物は、何の変哲も無い単なる「水晶の栓」でした……。
《 こんなつまらない物のために、なぜジルベールたちは争いまでしたのだろう? 》 ルパンは不思議でなりません。そして、その「水晶の栓」も翌朝、彼のもとから何者かによって盗まれてしまったのでした……。
 運河の建設をめぐる政界の汚職事件を背景に、ルパンは刑務所につながれた部下の救出と、憂いに満ちた一人の美しい婦人を助けるために、さまざまな困難を乗り越えて、悪徳代議士ドーブレックの悪事に敢然と立ち向かいます。
 「水晶の栓」の秘密とは? その隠し場所はどこなのか? ルパンは刻一刻と迫るジルベールの処刑を助け出すことができるのでしょうか? タイムリミットが近づくなかで、ルパンは有効な手段を講じることができず、終盤まではらはらさせる展開の長編です。




アルセーヌ・ルパンの結婚

 フランス貴族の名門の子孫であるサルゾー・ヴァンドームの姫君に結婚を迫るルパンは、新聞を活用して大々的に宣伝しまくります。姫の父親のヴァンドーム公爵は、 《 わが家を侮辱された! 》 と怒り心頭に達します。そして何とかルパンの魔手から娘を守ろうとして、いや、それよりも家名や面目を守ろうとして必死で抵抗するのでした。
 ルパンはそんなことにはおかまいなしで、ある夜公爵の邸に忍び込み、姫に直接、婚約指輪を手渡しにくるという始末です。
 業を煮やした公爵は、娘のアンジェリックを従兄弟三人の中から無理やり花婿に選ばせ、絶対にルパンとの結婚を阻止しようとするのでした。
 結局、ダンボワズがアンジェリックの花婿に選ばれ二人は結婚し、ルパンの魔手から逃れるために公爵の領地に避難したのですが……。
 物語の後半でルパンは、それまでペテンにかけた相手としか思っていなかったアンジェリックの心のやさしさに胸を打たれます。そしてルパンに危険が迫ったとき、彼女は機転を働かせて彼を逃がそうとします。ルパンはそんなアンジェリックに 《 あなたはわたしの妻です…… 》 と感激をこめて口走ろうとするのでした……。




麦わらのストロー

 百姓のグーソ親方のもとに忍び入った泥棒は、屋敷の中で忽然と姿を消してしまいました。おかみさんの証言によると、その盗賊は浮浪者のトレナール爺さんらしかったということでした。
 グーソ親方らは屋敷中くまなく捜したのですが、トレナール爺さんの姿はどこにも見つかりません。
 4週間もたって人々があきらめかけたころ、一人の旅行者が村を自動車で通りかかりました。その紳士はこの話を聞くと非常に興味を持ち、
《 自分なら、その泥棒を見つけられるかも知れない 》 と提案するのでした。
 そして彼は屋敷に着くなり、地面に落ちていた麦わらをつまんだかと思うと、急に笑い出すのでした……。
 ルパンがひと目見るなり泥棒の隠れ場所を見破って指摘するのもすごいですが、なんといってもその泥棒からさらに金を盗み取り、またグーソ親方からも門の鍵をかっぱらって悠々と立ち去る姿が面白い短編です。




白鳥の首のエディス

 「白鳥の首のエディス」というタペストリーを盗み出したルパン。盗難に遭った持ち主のスパルミエント大佐はそのショックで自殺を図り、まもなくれき死体で発見されます。
 案の定、この事件でルパンは “スパルミエント大佐を殺してしまった!” として、新聞などで手ひどく叩かれるはめになります。 “直接手は下さなくても、死の責任はルパンにあるはずだ” といった具合でした。
 この事件を担当したガニマール警部は、これらのことから今回のルパンの犯行に対して、とても怪しいと感じるのでした。そして、いつになく卓越した調査と推理で、ルパンの犯行を逐一見破ります。その推理は、上司のデュドゥーイ保安部長も驚くような、とうてい信じられないようなものでした……。
 この作品では、ルパンは冒頭で、いつも馬鹿にしてばかりいるガニマールをかなりほめています。怪盗の立場から警察の人間をほめるというのもおかしな話ですが、結局、真相を見破ってもルパンの逮捕にまでは至らず、というのがガニマールの能力の限界というところでしょうか?
 また、この作品では、ルパンとの駆け落ち以後のソニア・クリシノフ嬢のその後が描かれています。彼女自身の台詞や身振りをうかがうことはできませんが、一度出たヒロインはほとんど登場しないことの多いルブランの作品としては、異例の登場です。




砲弾の破片――オルヌカン城の謎――

 ポール・デルローズは結婚したばかりの妻エリザベートとともに、妻の父親から譲られた新居となる独仏国境の地オルヌカン城に向かいます。その旅路でポールは新妻に、自分が少年時代に遭遇したある奇妙な出来事について話して聞かせるのでした。
《 僕ら父子はある森でドイツ皇帝に出会ったんだ……そして僕の父は皇帝の従者の一人の女によって殺された…… 》
 オルヌカン城に着いた二人は城館で、エリザベートのすでに亡くなった母親の肖像画を眺めるのでした。そしてポールはその肖像画を見て凍りつき、驚愕して叫ぶのでした……。
《 この女は……僕の父を殺した女だ……! 》
 第一次世界大戦が始まって間もない頃の独仏国境の地オルヌカンで、苦悩に満ちたポールはフランス軍に志願し、わだかまりを感じる妻を一人城に残して戦場へと旅立つのでした。
 やがてドイツ軍に連れ去られた妻エリザベートを救出するために、ポールは妻の弟ベルナールとともに、ドイツ皇帝のたくらんだ途方もない陰謀に敢然と立ち向かうのでした……。
 この作品にはルパンは端役として出てくる程度の登場ですが、ルパンの助言を得て活躍する主人公ポールの勇敢な行動に、最後まで引き込まれてしまう物語です。




黄金三角

 傷痍軍人パトリス・ベルヴァル大尉は、看護婦コラリーの危機を仲間のセネガル人とともに救い出します。実はパトリスは、陸軍病院に入院中の時から彼女のことを気にかけていたのでした。そして、偶然彼女に対する陰謀が企まれていることを知って助けに入ったのです。
 しかし、コラリーは彼の想いを聞いても冷淡に対応し、かたくなな態度をとろうとします。やがて彼女が帰ろうとするとき手提げから、紫水晶のかけらが落ちたのでした。
 その紫水晶のかけらはパトリスも持っているものでした。一体、二人の間にはどのようなつながりがあるのでしょうか?
 やがて、コラリーの夫である金融家エサレス・ベイが死体となって発見されます。パトリスはエサレスの企んでいた大規模な金輸出の汚職があることを知り、またコラリーの身を守ることもあって、この事件に巻き込まれていきます。
 「黄金三角」の秘密とは何なのか? またパトリスとコラリーの間にある、運命的で不可思議な関係はどのようなものなのか?
 二人はやがて絶体絶命の危機に遭遇します。ルパンは一体何をしているのでしょうか? 中盤はかなりハラハラさせられます。そして、彼の介入によって、事件は解決の糸口をみつけるのでしょうか? 最後まで息をもつかせぬ傑作です。




三十棺桶島

 死んだと思われていた実の父親と一人息子の消息を知ったベロニックは、ブルターニュ沖の孤島サレック島へと向かいます。この島は別名《 三十棺桶島 》とも呼ばれ、無気味な奇岩に囲まれ、そして幾多の奇怪な伝説に彩られた島でした。
 彼女が島に上陸して間もなく、ようやく会えた父親のデルジュモン氏は何者かによって襲撃され殺されてしまいます。その殺害現場から逃げ出す一人の少年……彼の姿はベロニックの息子フランソワとちょうど同じ年恰好のようでした。 《 まさか、わたしの息子が……? 》 ベロニックはこの不吉な考えに不安でなりません。彼女には少なからず思い当たることがあったのです。
 また、この殺人に恐れおののき、島からあわてて逃げ出す島民たちも、海上で二人組みの男たちに襲われ、次々に殺害されていくのでした……。
 ブルターニュ沖に浮かぶ絶海の孤島を舞台に、「三十の棺桶と四つの十字架」の予言通りに猟奇的な殺人が発生していきます。果たしてこれは何者の仕業なのか? 狂人の仕業か? それとも……。
 伝説と歴史に翻弄される島民や犯罪者たちの悲劇的な事件にルパンは介入し、島に隠されたある秘密を暴いていきます。




虎の牙

 急死したコスモ・モーニントンの遺産相続人に指名されたドン・ルイス・ペレンナ。もしモーニントンの親族が一人も見つからなければ、彼がその全遺産2億フランを相続することになるのです。
 モーニントンの親族を見つけるために調査していたヴェロ刑事は、何者かによって毒殺されてしまいます。そして彼が収集した手掛かりに「歯型のついたチョコレート」がありました。これは一体何を意味するのでしょうか?
 ドン・ルイスはこの事件に介入し、命を脅かされているという親族の一人、フォーヴィル技師の屋敷へと向かいます。そしてこのフォーヴィル親子はその夜、またしても毒殺されてしまうのです。
 ドン・ルイスが屋敷の庭で見つけたリンゴには、チョコレートについていたものと同じ歯型がありました。彼はそのリンゴを見て戦慄し、《 虎の牙 》と名づけるのでした……。
 姿の見えない敵によって、次々と遺産相続権のある人々が消されていきます。そしてドン・ルイスの秘書のフロランスも、何かこの事件に関わりがあるらしいのです。
 彼は事件の展開とともに、自分のもとから逃げるようにして姿を隠すフロランスに、強い憎悪と愛情の入り混じった複雑な感情を抱きます。
《 この女は一体何者なのだ? 誰かに操られているのか……? 》
 ルパンの情熱はある秘密を持つ女性を追いかけます。冷酷な犯人に連れ去られ、命の危険が迫るフロランス……。愛する女性を救い出すため、ルパンの追跡が始まるのでした……。
 息をもつかせぬ躍動的なストーリーに、おもわずページをめくる手がおさまらないほどの大作です。




アルセーヌ・ルパンの帰還

 資産家ジョルジュの屋敷に多士済々な人々が集まり、昼食会が開かれます。屋敷にやって来た彼らは皆口々に、今朝読んだ新聞のことを話題にするのでした。
 ――アルセーヌ・ルパンが、挑戦状を各紙に載せている!
 彼らはみな半信半疑です。「アルセーヌ・ルパン」なんて、本当に実在するのか? 誰かのいたずらではないのか?
 そんな彼らに、ジョルジュはある不思議な人物のことを話して聞かせるのでした。その名はダンドレジィ……。集まった皆はジョルジュの異様な体験談に耳を傾けるのでした……。
 この作品は一幕物の戯曲を小説――脚本調ではありますが――に著したものです。皆の話題に上るダンドレジィなる人物は、アルセーヌ・ルパンとはどのような関係があるのか? また、『ルパンの冒険』でのソニア嬢もゲスト出演しています。ルパン・シリーズのなかではかなり異色の部類に属する作品です。


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