アルセーヌ・ルパン ――あらすじ T――

アルセーヌ・ルパンの逮捕

 アメリカへ向かう大西洋横断汽船 《プロヴァンス号》 がフランス沿岸から離れて二日目のことでした。船内に一つの無線電信がフランスから届きます。
 “アルセーヌ・ルパンが乗客にまぎれて乗船している。右腕に傷、金髪、そして変名はR……”
 それはなんと、あの絶対に捕まらない怪盗、誰にでも変装して行方をくらますことのできる有名なアルセーヌ・ルパンが、この 《 プロヴァンス号 》 に乗り込んでいるという驚くべき情報でした。
 乗客のベルナール・ダンドレジーは、船内で知り合った若く麗しい女性ネリー・アンダーダウンとともに、船内の誰が「アルセーヌ・ルパン」なのか興味半分であてようとします。
 二人にはどうも、「ロベール」というボルドー出身の金髪の青年が怪しく思えました。彼の名前は「R」で始まり、そして彼はなぜか本物のルパンにあるという右腕の傷を隠すかのように、その袖をまくることを拒むのです……。
 そうしているうちに、二人のまわりで次々に不可解な盗難が起き、やがて疑わしいロベールも襲撃されてしまいます。
 いったい、ルパンは何者なのか? 誰に変装しているのか……? 一週間の航海が終わり、ルパンの宿敵ガニマール警部の待つニューヨークに着いた時、意外な真実が明らかにされます……。




獄中のアルセーヌ・ルパン

 ルパンがガニマール警部に逮捕され、ラ・サンテ刑務所につながれてからしばらくたったある日、マラキ城のカオルン男爵は一通の手紙を受け取ります。
 それはこともあろうに、ルパンからの犯行予告の手紙でした!
 《 貴殿の所有する美術品・骨董品を、直ちにわたし宛てに期日内までに送れ。さもなければ、わたし自身が盗みに参上する! 》
 これを読んだカオルン男爵は驚きあわて、地元の警察に相談に行きますが、「ルパンは今、獄中にいる。盗みになど来るはずがない。これはいたずらだろう」といって取り合ってくれません。
 ようやく人伝えに、この地方にあのルパンを逮捕したという有名な刑事、ガニマール警部が休暇で滞在しているということを知ります。男爵はいやがる警部をようやく拝み倒して、マラキ城の警備についてもらったのですが……。
 ルパン流の人を喰った盗みのテクニックと、自分を逮捕したガニマールへの面あてともとれる結末がおかしい短編です。




アルセーヌ・ルパンの脱獄

 ラ・サンテ刑務所のルパンは、悠々自適に毎日を過ごしています。しかし、刑務所の役人や警察庁のデュドゥイ部長らは気が気ではありません。
 《 いつルパンは脱獄するものやら……? 》と心配で、身辺の警備に大変気を配っていました。
 なぜなら、ルパンは取調べ中に、《俺は好きな時に脱獄する。裁判には絶対に出ないだろう》とつねづね公言していたからです。
 ある日、取調べが終わり、裁判所から刑務所へと護送車が向かう最中にルパンは見事に脱走します。護送車に仕掛けがしてあったのです。
 しかし、ルパンはそのまま逃亡もせず、徒歩で刑務所まで戻ると、門衛に「俺は帰ってきた! 中に入れてくれ!」などと、司法当局を馬鹿にしたような態度までとる始末です。
 いったいルパンには、本気で脱獄する気があるのか、ないのやら……? 結末は、ルパンの脱獄に賭ける精神的・心理的な妙技に思わず脱帽させられます。




不思議な旅行者

 ルーアンへの特急列車に乗り込んだギョーム・ベルラはある婦人と同席します。発車まぎわに一人の男が、二人の車室に飛び込んできました。
 彼を見た婦人は顔を真っ青にして、ギョームにささやくのでした。
 「この男はアルセーヌ・ルパンです……どうしましょう!…… 私たち襲われてしまうわ……」
 ギョームは、この男はルパンであるはずがないと、怖がる婦人をなだめますが、男の顔をどこかで見たような気がしないでもありません。
 走り続ける列車の中で、やがてギョームは襲いくる睡魔に負けて眠り込んでしまいます。やがて彼が目を覚ました時、その謎の男は、彼の首を締め付けていたのでした……。
 一人称で始まるこの短編は、ルパンの探偵としての能力が生かされ、また強盗の身で追われる者であるにもかかわらず、警察に協力した物語でもあります。殺人犯をルパンが自動車を駆使して追い詰めるスピード感が作品を盛り上げます。




王妃の首飾り

 カスティーユ宮殿でのデンマーク国王クリスチャン9世を迎えての舞踏会で、ドルー・スービーズ伯爵夫人は家宝の『王妃の首飾り』を身につけ、ひときわ目立っていました。
 翌日の朝、伯爵夫妻はその首飾りが何者かによって邸内から盗み出されていることに気づきます。首飾りを保管してあった小部屋は密室に近く、たった一つある窓も今まで閉めきりで、ひと一人通ることもできないほど小さいのです。犯人はどのようにして盗み取ったのでしょうか?
 伯爵夫妻や警察の人々は、その小部屋に首飾りが仕舞ってあることを唯一知っていた小間使いのアンリエットを疑い、尋問します。
 彼女は自分にかけられた嫌疑のあまりのことに、幼い一人息子のラウールを抱きよせ恐れおののくのでした……。
 それから十数年たったある日、フロリアーニという人物が伯爵邸を訪ね、この事件を見事に推理し、首飾り紛失の謎を明快に解き明かしたのでした……この人物こそ……。
 不幸な母親を救おうとして盗みを働く幼いころのルパンが、成人したのちの彼自身の言葉によって、事件の真相とともに語られます。




マダム・アンベールの金庫

 深夜の人通りのない道で、暴漢におそわれ助けを求めるアンベール氏の命を救った貧しいルパン青年は、氏の好意によって秘書の仕事を得ます。しかし、この救命劇はまったくの茶番……ルパンの真の目的は、アンベール夫妻の持っている多額の証券のつまった書斎の金庫にあったのです。
 アンベール夫妻はなかなか用心深く、隙を見せません。また、ルパンに対する態度もよそよそしく、何かいわくがありそうな感じです。
 ルパンは相棒と手を組み、根気よく盗みの機会をうかがい、ついに彼らから証券を奪い取ります。
しかし、その証券はじつは……そしてこの夫妻の正体は……?
 アルセーヌ・ルパンとして強盗稼業にデビューしたばかりの青年ルパンの、忘れることのできないくやしい、にがい経験が語られます。




遅かりしシャーロック・ホームズ

 ティベルメニル城に保管されているドヴァーヌ氏の骨董品に目をつけたルパンはさっそく変装して、彼の客としてもぐり込みます。ルパンはこの城に隠された秘密の抜け道を利用して、その骨董品を運び出そうという計画なのです。
 しかし、このルパンの計画に気づいたドヴァーヌ氏の要請でイギリスから、かの有名な名探偵シャーロック・ホームズがルパンと対決するためにやって来てしまいます。
 長いあいだ、誰も解けなかった城の秘密を解き、ルパンは難なく骨董品を盗み出すことに成功します。しかし、そのとき廊下の向うから、誰かの足音が聞こえてきたのでした。香水のかおりから女性であることがわかります。そしてルパンは、その女性に犯行の現場を目撃されてしまうのです。その目撃者は彼がよく知っている女性でした……。
 城から逃走するルパンはその道すがら、五十がらみの外国人らしい男と出会います。この人物こそ……あのシャーロック・ホームズでした! 二人の傑出した人物が、今ここに初めて出会ったのです……!
 ホームズとの劇的な対面もさることながら、ルパンが愛してやまない、なつかしい女性との再会と別離のコントラストが印象深い作品です




黒真珠

 有名な黒真珠をねらってアンジロ伯爵夫人のアパルトマンに忍び込んだルパンは、そこで何者かによって荒らされた部屋と、無残に殺害された夫人の遺体をみつけます。
 《 ぐずぐずしていては殺人犯の濡れ衣をきせられてしまう。このまま逃げようか……? 》
 一瞬、彼の頭に浮かんだこの考えはたちまち消え去りました。夜明け間ぢかの限られた時間で、彼は焦って焼け付くような頭で、どうやってこの危機を乗り切り、黒真珠を奪還するか、ひたすら考えるのでした……。
 それから六ヵ月後、容疑をかけられていた伯爵夫人の元下男が証拠不十分で釈放されます。一息つくそんな彼のもとに、ある日、一人の探偵が声をかけたのでした……。
 ルパンが真犯人を追い詰めて黒真珠を取り戻すまでの過程を、短い限られた時間で思いつく天才的なひらめきや、彼が仕掛けた罠にまんまとはまっていく殺人犯とのやりとりに感嘆させられます。




ブロンドの貴婦人(金髪婦人)


――23組514号――

 教師のジェルボア氏は古道具屋で、年代物の机を娘のシュザンヌのために買い取りました。しかし、ちょうどその場にいたある青年もこの机の購入を欲し、二人は口論になります。青年は口論しても無駄だと悟るとあきらめて立ち去ったのでした。
 翌日、ジェルボア氏は昨夜買ったばかりの机を、あろうことか見事に自宅から盗まれてしまいました。
 《 あの青年の仕業にちがいない! 》 ジェルボア氏は嘆きましたが後の祭りです。しかし、それよりも、この机の中にはもっと重要な物が、またそれ以上に机そのものにも、ある重大な意味が隠されていたのです……。
 百万フランの宝くじをめぐって、ルパンとジェルボア氏は新聞を通じて互いに論争を繰り広げ、ついには娘のシュザンヌまでが誘拐されてしまう悲劇へと事件は発展していきます……。
 『ブロンドの貴婦人』の初頭を飾るこの物語は、短編としてもおかしくない独立した趣きがあります。ルパンが事件を通して二人の従兄妹の恋文を見つけてしまい、二人を結びつけるようにジェルボア氏に嘆願するなど、家庭をうらやむルパンが少しほほえましい感じがします。



――青いダイヤモンド――

 「青ダイヤ」の所有者であるオートレック男爵が、屋敷の中で何者かによって殺害されます。殺害現場には金色の一筋の髪の毛が残されていました。それはどうやら小間使いのアントワネットの髪の毛らしいのです。
 警察は「青ダイヤ」を盗むために小間使いが、男爵を殺害したと結論しますが、意外なことに、ダイヤは盗まれずに男爵の指にはめられていました。また、金髪の小間使いの行方も杳(よう)として知れませんでした……。
 その後、「青ダイヤ」は競売にかかりクロゾン伯爵夫人の手に収まりますが、ほどなくしてそれも盗み取られてしまいます。そしてまたしても、あの謎の金髪の貴婦人の影が見え隠れするのです……。
 「青いダイヤモンド」の盗難事件に関して調査のため、イギリスから呼び寄せられたシャーロック・ホームズと熾烈な戦いを繰り広げるアルセーヌ・ルパン。イギリスの探偵とフランスの怪盗との、追う者と追われる者との戦い……。“第二次トラファルガーの戦い”ともいえる両者の決戦の結末はどうなるのでしょうか……?
 ルパンの愛する金髪の貴婦人の存在もからみ合い、ドラマは盛り上がっていきます。




ハートの7

 ある夜、遊び仲間との楽しい会食をすませ自宅に帰ったルブランは、ベッドの脇に一通の手紙が置いてあることに気づきます。
 《 動くな! さもないと君の命は危ない! 》
 不可解な手紙の内容にルブランは不審に思いつつも、ベッドの上で動くことができませんでした。なぜなら、隣室でガタゴトと、物が動く音がしきりにしだしたからです……。生きた心地もないまま、じっとしていた彼は明け方、その物音がやむと、さっそく一晩中隣室で何が起きていたのか調べてみることにしました。しかし、隣室には何も動かした気配などありませんでした。ただ……一枚の「ハートの7」のトランプが落ちていたことを除いては……。
 新造潜水艦に関する多国籍間の利害を巡る争いを描いたこの事件で、作者のモーリス・ルブランはアルセーヌ・ルパンと初めて出会います。そして彼はこの機会を通じて、以後、ルパンの伝記作者としての栄誉を担っていくことになります……。
 普段はフランス警察を馬鹿にしてばかりいるルパンですが、本当は「愛国者」としての彼の顔を見るのも、意外な一面を知ることができて面白い短編です。




ユダヤのランプ

 「ユダヤのランプ」を盗まれたダンブルヴァル男爵は、ロンドンのシャーロック・ホームズに調査の依頼をします。しかし同時に、ルパンからも
 《 この件からは手を引いていただきたい…… 》 という手紙が届きます。
 このルパンからの手紙を“挑発”と受け取ったホームズはワトスンを連れ、パリの男爵邸に乗り込みます。しかし、男爵の幼い令嬢の家庭教師、アリス・ドマン嬢も
 《 この件からは手を引いてください。きっと後悔なさいます…… 》 というルパンと同じような警告をホームズたちに与えるのでした……。
 一体、ドマン嬢とルパンとの間には、どのようなつながりがあるのか?
 ホームズが男爵邸で調査を進めるうちに、相棒のワトスンは何者かによって狙撃され重傷を負ってしまいます……。
 ルパンやドマン嬢、そして狙撃者との間には、いったいどのような関連があるというのか……?
 暗合解読などの面ではさすがのホームズも、この事件の本当の真相には、推理が回らなかったような感のある作品です。




ルパンの冒険――戯曲アルセーヌ・ルパン――

 結婚を間近に控えたシャルムラース公爵とその婚約者ジェルメーヌたちは、レンヌ地方の公爵の領地に滞在していました。そんなある秋の夕暮れ、ジェルメーヌの父親で富豪のグルネイ・マルタンのもとにルパンからの脅迫状が届きます。
 《 パリの邸にある貴下のコレクションをいただきます。明朝、もらいに参上いたします。 》
 これを見たマルタンは驚き慌て、取り乱します。なぜなら、三年前にも同様にして脅迫状が送り付けられ、高価な骨董品が多数盗まれたことがあったからです。
 公爵は婚約者たちを残して、一人パリへと自動車を飛ばします。翌朝早くパリの邸に着いたものの、時すでに遅くコレクションは盗み取られていました。そして壁にはチョークで「アルセーヌ・ルパン」と署名がしてあったのです……。
 事件を通してルパンは、マルタン家で雇われている不幸な生い立ちを持つロシア娘ソニア・クリシュノフと出会い、深くその境遇に同情し、やがて二人は愛し合います……。
 ルパンを追い続ける宿敵ゲルシャール警部との「ランバール大公夫人の宝冠」をめぐる駆け引きなど、後半部分は息つくひまなくドラマが展開します。




奇岩城――エギュイーユ・クルーズ――

 ある夜更け、ディエップに近いジェーヴル伯爵の館へルパンは盗みに入ります。その館に住んでいた伯爵の姪レイモンドは、物音に気づいてルパンを発見し、彼女は気丈にも、暗闇を逃げるルパンめがけてライフル銃を発砲したのでした。
 彼女や召使いたちは館のすみずみを探し回ったのですが、確かに命中したと思えた不審者の姿はどこにも見当たりません。また、館では伯爵の秘書の刺殺死体がみつかり、そのそばには伯爵自身が気を失って倒れていたのでした。盗まれたものは何もなく、事件は不可解な様相を呈しています。また、庭の地面に落ちていた一枚の暗号文も、何かこの事件と関係があるのでしょうか……?
 高校生の探偵イジドール・ボートルレはこの事件に介入し、ルパンに果敢に挑戦して幾多の危機を乗り越え、ついにルパンのアジトを見つけ出すことに成功するのでした。しかし、彼が勝利をつかんだと思いきや、アジトで待っていた人物は……。そして意外な悲しい結末が、登場人物たちを待ち受けていました……。
 フランスの歴史や伝説を背景に、王たちの富や権力の秘密を握る「エギュイーユ・クルーズ」とは一体何なのか? 作品を読み進めていくにつれ、その秘密が壮大なスケールで描き出されます。




813――アルセーヌ・ルパンの二重生活――

 「ケープのダイヤモンド王」の異名をとるルドルフ・ケッセルバックはある秘密の事業のためにパリのホテルに滞在していました。しかし、彼はその翌朝、ホテルの部屋で刺殺死体となって発見されます。そのそばには被害者の血に染まった「アルセーヌ・ルパン」の名刺が落ちていました……。
《 ルパンが殺人を? まさか…… 》 誰もがこの殺人事件に驚愕します。ルパンは「奇巌城事件」以来四年もの間、その行方をくらまし、一般には死んだものとして世間から葬られていたのでした。その彼が再び現われ、しかもあろうことか殺人を犯すとは……。
 この事件を担当した有能な捜査官・ルノルマン国家警察部長は、この殺人はルパンの仕業ではないと断定し、真犯人を見つけ出すため捜査に乗り出します。また一方では、セルニーヌ大公という人物もこの事件に介入し、さまざまな工作を展開するのでした……。
 「813の秘密」とは一体何なのか? 黒衣の殺人者の恐ろしい影、そしてこの事件の黒幕アルテンハイム男爵の陰謀もからんで事件はますます複雑な様相を見せ、物語は「続813」へとつながっていきます。




続813――ルパンの三つの罪――

 アルテンハイム男爵との闘いのあと、ジュヌヴィエーヴを救出したルパンは再び警察に捕えられ、ラ・サンテ刑務所につながれてしまいます。
 同じく男爵の虜(とりこ)となっていたスタインウェッグ老人も救い出され、ルパンは老人からドイツの利害がからむ重大な情報を得るのでした。そして、その機密の保持のためにドイツ皇帝自らがルパンに会いに監獄までやって来ます。
 旧ヴェルデンツ公国に向かったルパンは見事に「813の秘密」を解き明かしますが、時すでに遅く、機密文書はあの「黒衣の殺人鬼」によって盗み取られていたのでした……。
 物語の最後では、ルパンは意図しなかった三つの罪を犯し、また彼は、彼の最も愛する者に対しても、世にも悲しい別れを経験するのです……。
 ルパンの野心と挫折、愛情と憎しみが入りまじったこの後編は、前編の「813」と合わせてとても読みごたえのある作品です。


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